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開成中学校・高等学校に「ピアノの授業がある」…さすがの理由
【2021年8月14日(土) 幻冬舎ゴールドオンライン
音楽教室を主催する筆者は、音楽に親しむことで「論理的思考力」も鍛えられると主張します。実際、多くの東大合格者を出している開成中学校では生徒全員がピアノを弾いており、高校になると作曲の授業も選択できるそうです。音楽が育む素晴らしい力について、見ていきましょう。

音楽を介した遊びを楽しむうちに「感性」が磨かれる
筆者の音楽教室には、ピアノやヴァイオリンをはじめ、ソルフェージュ、作曲、声楽・ボイストレーニング、チェロ、フルート、クラシックギター、絶対音感など、さまざまなクラスがあります。そのなかでも「幼児リトミック=ソルフェージュ」のレッスンは、生後3〜4ヵ月くらいの首の据わったお子さんから参加しています。これは子どもたちが音楽と能動的に関わる最初の接点になります。レッスンでは、季節に合わせた音楽を扱ったり、自然の風物や食べ物などの身近なものと関連させたりしていきます。それに合わせて、子どもたちは体を使って自分なりの表現をします。最初は物怖じして、みんなの前では自分を表現できない子も、音楽の力に後押しされるように、自分の表現ができるようになっていきます。レッスンを受け始めたばかりのときにはお母さんの陰に隠れるようにしていた子が、徐々に音楽に合わせて体を動かすようになり、やがて体を目一杯使って、人前でものびのびと自分を表現できるようになっていく姿を数え切れないほど見てきました。こうして音楽を介した「遊び」を楽しんでいるうちに、子どもたちの感性は自然に磨かれていきます。リトミックを経験した子どもたちは、成長していくにしたがってピアノやヴァイオリンなどの楽器にも興味をもち、学び始めるようになります。例えば、小学校高学年くらいになったお子さんが、ドビュッシーの曲に挑戦することになったとしましょう。ドビュッシーはフランスの作曲家です。彼の作曲した『月の光』や『亜麻色の髪の乙女』などはCMなどにもよく使われるので、多くの人が耳にしたことがあるのではないでしょうか。彼はその作曲技法から「印象主義音楽(印象派)」と呼ばれています。そのドビュッシーの楽曲を指導する際、講師は技術面へのアドバイスはもちろんのこと、子どもの感性を刺激するような、こんな指導もします。
「印象派のモネの絵を見たことはある? モネの『睡蓮』をイメージして弾いてみよう」
音楽を通して感性を磨いてきた子どもたちは、「音楽」や「美術」というジャンルを軽々と超えて、絵画の印象を自分のなかで消化し、それを音楽を通して表現するということができるようになっています。感性を研ぎ澄まし、創造性豊かなアウトプットをするということは、人工知能にはできないことであり、人間であっても、一朝一夕には身につけることのできない力です。音楽教育によって磨かれた感性は、これからの時代をAIと共存しながら生きる子どもたちにとって、かけがえのない財産になるといえるでしょう。

演奏できるようになると「論理的思考力」が鍛えられる
曲を演奏できるようになるということは、その曲の構成を客観的に捉え、分析し理解できるようになるということです。ソルフェージュなどを通して音楽に親しんだ子どもたちは、音楽に対する鋭い感覚を身につけ、音楽への興味・関心を深めていきます。それと同時に、曲と向き合い分析し理解することによって、自然と論理的思考力が鍛えられていきます。その結果、高度な演奏技術や表現力を習得していくことになるのです。西洋のクラシック音楽の楽曲は論理的に構成されていることがほとんどなので、音楽を学ぶことは、作曲者の意図や論理的思考の道筋をたどることになります。そうすることを通して楽曲を正しく解釈し、説得力のある表現を作っていきます。一方で、現在のAI技術はどうでしょうか?イギリスのディープマインド社(2010年にDeepMind Technologiesとして起業され、2014年にGoogleの傘下に入る。AIによる囲碁対局ソフト「AlphaGo」を開発し、2016年にトップレベルのプロ囲碁棋士を史上初めて破ったことでも話題を集めた。)のサイトでは、AI技術を用いて自動作曲した「曲」のサンプルを聴くことができます。これは、人工知能にピアノ曲を「波形」としてインプットし、特徴量を抽出し、確率過程に乗せて波形を繰り出すという形で作られたものです。10秒程度のサンプルは、確かにロマン派から近代のピアノ曲風の音源にはなっています。ただ、今の人工知能にできることはそこまでです。人工知能は一曲全体を通して論理的な構成をすることができないため、自動作曲された楽曲は聞くに堪えないものになるのだそうです。東京大学の合格者数が全国で最も多いことで知られる開成中学校・高等学校では、音楽教育を非常に重要視しています。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会(PTNA)のサイトに掲載されている「開成中では全員がピアノを弾いている!」という記事によれば、中学校ではピアノの演奏方法が教えられ、高校では作曲の授業も選択できます。その授業では、音楽大学でも使われているテキストが用いられているというのですから本格的です。また、東大に合格するためには、例えば次の一文で示されているように論理的思考力が不可欠であるといわれています。
「実は東大の問題というのは、(中略)『知識の運用能力』を問うものばかりなのです。最低限の知識しか求めないけれど、論理的思考力がないとどんなに頑張っても解くことができない、そんな問題が多いのです。」(サイト「現代ビジネス」中の西岡壱誠著「現役東大生が教える『論理的に考える力』の鍛え方 東大入試で問うのは『知識量』ではない」より)
開成中学校・高等学校が数多くの東大合格者を生み出し続けているのは、もともと勉強熱心な生徒が集まっていることもあるのでしょうが、もしかしたら同校の音楽教育の効果も少なからず影響しているのかもしれません。

発表会で「自己表現力」が養われる
音楽教育を受けている子どもたちは、自分の感性によって音楽を受容し、論理的思考力によって曲を解釈したうえで、練習を積んで自己表現力を養っていきます。その自己表現力は、受け取る相手があってこそ磨かれるものであり、音楽教育においては、「発表会」が絶好の機会となります。発表会では、普段の練習とはまったく異なる環境に戸惑い、失敗してしまう子もいます。きちんと暗譜していたはずなのに本番の緊張で突然頭が真っ白になってしまったり、最初の音を1オクターブ間違えて弾き始めてしまったり、あまりの緊張に足がすくんで舞台に出ていけなくなってしまったり……。このような失敗も、子どもたちにとっては貴重な経験となります。あらゆるリスクに備えて、できる限りの準備を真剣に行うということの大切さを身をもって学びます。音楽教室に通う子どもたちは、このような実体験を積み重ねることで、プレッシャーのかかる場面でも、自己表現ができるという自信をつけていきます。そうした経験が活かされるのは、発表会の場に限りません。受験や就職試験などの緊張感が漂う場面で、緊迫した空気にのまれることなく、実力を発揮できるようになります。このように、音楽教育によってもたらされる効果は子どもたちの「生きる力」となるのです。

小林 洋子
一般社団法人日本ソルフェージュ協会 会長
沼田 峰紀
株式会社レゼル 代表取締役
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