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対決型競技の勝者の決め方 → オリンピックを見ながら「頭の体操」
【2021年8月7日(土) 朝日新聞EduA「時事ニュースで好奇心にスイッチ!」】
日々のニュースの中に「学び」のきっかけがあります。新聞を読みながら、テレビを見ながら、食卓やリビングでどう話しかけたら、わが子の知的好奇心にスイッチが入るでしょうか。ジャーナリストの一色清さんが毎週、保護者にヒントを教えます。

トーナメントの試合数を導く「公式」
2020東京オリンピックが終盤を迎えています。連日テレビをつけっぱなしにして観戦している人もいるのではないでしょうか。オリンピックが終わると翌日から全国高校野球選手権大会が開かれます。こちらもテレビで観戦する人は多いでしょう。スポーツには、陸上や水泳のようにタイムを競う競技、体操やアーティスティックスイミングのように審査員の採点で競う競技、野球やサッカーのように対決して勝敗を決める競技などがあります。対決型競技の場合、全体の順位を決める主な方法として、トーナメント形式、リーグ戦形式、両方を組み合わせた形式の三つがあります。ここでは、この対決型競技の勝者の決め方をテーマに頭の体操をしてみたいと思います。まず、トーナメント形式ですが、これは勝ち残った最後の1チームが優勝する形式です。勝ったチームが残り、残ったチーム同士が試合をし、それを繰り返して最後に残った2チームが対決して勝ったチームが優勝、つまり1位になるわけです。負ければそこで終わりの一発勝負になります。ただ、トーナメント形式は、少々不公平があるのがふつうです。1回戦から試合をするチームと2回戦から試合をするチームに分かれがちです。すべてのチームがもれなく1回戦から出場するためには、参加チームの数が限られるためです。参加チーム数が2、4、8、16、32、64、128……という場合に限って、もれなく1回戦から試合をすることになります。つまり、2×2、2×2×2、2×2×2×2……という具合に2の2乗、3乗、4乗……となる数字です。逆にいうと、2で割り続ければ最後に1になる数字です。この数字の参加チーム数でなければ、2回戦から出場するチームが必ず生まれます。全国高校野球選手権大会はとても規模の大きいトーナメント形式の大会です。今年の大会には全国47都道府県の3603チームが参加しました。この地方大会で優勝した49チーム(北海道と東京はそれぞれ地区が二つに分かれている)が甲子園大会に進みました。ここで問題です。では47都道府県の地方大会から甲子園大会の決勝までの試合数はいくつでしょう。再試合や参加辞退は考えないことにします。47都道府県のトーナメント表をひとつずつ数えて、それに甲子園大会のトーナメント表を数えて足すとわかるでしょうが、そんな大変なことをしなくてもすぐにわかります。答えは3602試合です。1試合で必ず1チームが負けます。試合数と負けるチーム数は同じになります。最後まで負けずに終わるのは1チームだけです。つまり、(参加チーム数−1)が負けるチーム数であり、試合数になります。3位決定戦がある場合はここに1足すので、試合数と参加チーム数は同じになりますが、高校野球では3位決定戦はないので、ここの答えは3603−1の3602試合になります。算数の問題というより、頭を柔らかくする問題としてよく知られています。

リーグ戦の長所と欠点とは?
リーグ戦というのは、参加チームがほかのすべてのチームと対戦する総当たり形式のことをいいます。たとえば、A、B、C、Dの4チームのリーグ戦の場合、A対B、A対C、A対D、B対C、B対D、C対Dの6試合が行われます。リーグ戦の試合数は縦にA、B、C、D、横にもA、B、C、Dと書いた16マスの正方形をつくればよくわかります。A対Aなど同じチーム同士の試合はないので、左上から右下までの4マスには斜めの線を入れます。残った12マスにはA対B、B対Aという同じ試合が重なっていますので、実際の試合数はその半分になります。つまり、(4×4−4)÷2=6が試合数になります。たとえば参加チームが9チームだった場合は(9×9−9)÷2=36で、36試合行われることになります。オリンピックのサッカー、バスケットボール、バレーボールなどの球技では、まず予選をリーグ戦で行い、予選の上位チームがトーナメント形式で金メダルを争います。男子サッカーの場合は、16チームが4グループに分かれて予選リーグを行い、各グループ上位2チームの計8チームがトーナメント形式の試合に臨みます。準決勝で敗れたチーム同士の3位決定戦もあります。これだと全部で何試合になるでしょうか。まずリーグ戦ですが、一つのグループの試合数は(4×4−4)÷2の6試合です。それが4グループありますから6×4の24試合です。トーナメント形式は8チームで行いますので、8−1の7試合に3位決定戦の1試合を加えて8試合になります。リーグ戦と合わせて24+8の32試合ということになります。どうして勝者を決める方法がいくつかあるのでしょうか。それはトーナメント形式にもリーグ戦形式にも一長一短があるからです。トーナメント形式はたくさんの参加チームがある時によく使われます。リーグ戦より試合数が少なくてすみます。また、毎試合「これが最後かもしれない」という緊張感があり、盛り上がります。ただ、一発勝負なので、実力通りの試合結果にならない場合があります。リーグ戦は総当たりなので、おおむね実力が反映されます。1996年のアトランタオリンピックの男子サッカーでは、リーグ戦の初戦で優勝候補筆頭のブラジルを当時ワールドカップに出場したこともなかった日本が破りました。ただ、残る2試合を連勝したブラジルは決勝トーナメントに出て、3位になりました。トーナメント形式ならブラジルは日本に負けた時点で終わっていたのですが、リーグ戦だったので命拾いをしました。逆に日本はリーグ戦3位で、決勝トーナメントに出られず終わりました。リーグ戦の欠点は、参加チームが多いと試合数が多くなりすぎることや、トーナメントに比べると優勝決定の盛り上がりに欠けることです。そのため、オリンピックでは両方を組み合わせた形式をとっています。トーナメント形式、リーグ戦形式、両方合わせた形式のほかにも、やり方はいろいろあります。大相撲は番付の近いもの同士があたる変則リーグ戦方式ですし、囲碁や将棋は名人や棋聖といったチャンピオンにリーグ戦やトーナメントで首位になった棋士が挑戦する形式です。今回のオリンピックの野球のように、敗れ去るチームのない変則リーグ戦と、リーグ戦の順位やトーナメントの勝ち負けによって試合数が変わる変則トーナメントを組み合わせた複雑な方式もあります。調べるともっといろいろなやり方があると思います。夏休みの自由研究で調べてみてはどうでしょうか。
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