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「一力劇場」世界で見せた 速く正確な読み、新手で主導権 囲碁・LG杯8強、次戦は11月
【2021年6月21日(日) 朝日新聞デジタル(大出公二)】
 囲碁の世界戦で中国、韓国の棋士が圧倒的な強さを見せるなか、日本の一力遼天元が孤軍奮闘している。先の「第26回LG杯」では先鋒(せんぽう)の日本勢が相次いで敗退。戦わずして最後の砦(とりで)となったが、初戦完勝で8強にコマを進めた。準々決勝は11月。相手は世界最強とされる韓国の申真婿(シンジンソ)九段だ。5月30日〜6月2日、日中韓台の出場24人を8人に絞り込む第1ラウンド1、2回戦が、ネット対局で行われた。日本からの出場は、一力のほか許家元十段、伊田篤史八段。本因坊戦七番勝負まっただ中の井山裕太本因坊、芝野虎丸王座を外して組んだオーダーで、厳しい戦いが予想された。31日に許が韓国の元晟湊(ウォンソンジン)九段、伊田が同じく韓国の金志錫(キムジソク)九段の元世界チャンピオンふたりに敗れた。早々と唯一の日本選手となったシードの一力は、2日の2回戦に登場。「いつも以上にプレッシャーを感じた」という。前回LG杯では一力を含む5選手すべてが初戦で敗退した。同じ轍(てつ)を踏むわけにはいかない。相手は1回戦で韓国選手を破り、勢いに乗る台湾の新鋭、陳祈睿(ちんきえい)七段。気負いは対局が始まると霧散した。盤上没我で創意あふれるパフォーマンスを見せ、快勝した。握って一力の白番。図1の▲の一間バサミに、白1が野心的な新手だった。これで白Aのカケは黒B、白C、黒2の出切りから流行の定石に進む。それは相手の注文とみて変化した。とはいえ、見慣れた定石から離れ、それまで誰も打たなかった手を重要局で試すのは、よほどの度胸がいる。「打ちたい手を打てている」という一力の好調が見てとれる。続く黒2の切断に白3と外したのが用意の継続手。黒4で打ったばかりの白1の一子はひどい裂かれ形だが、白5と突き出して黒も裂かれ形ですよと主張している。白からはA以下Cの切断の狙いがあり、▲の処し方が不自由なのだ。白1はAI推奨の一手かと思いきや、自身の研究で編みだしたオリジナルだという。「一力定石」として名を残すかもしれない。ここから戦いが始まり、図2でまたもや一力が見せた。△のカカエに、黒1は▲の逃げだしを見たシチョウアタリだが、これに勇躍飛翔(ひしょう)の白2が大胆。▲の逃げだしを防ぎつつ、黒5の連打による隅の損を、白6からの攻撃で取り戻せると踏んだ。白の包囲網は白A以下Cの反撃の狙いがあり、見た目より厚い。序盤から白が主導権を握り、このあとやりたい放題の「一力劇場」となった。とどめは図3の▲に白1の踏み込み。黒Aと連絡を遮れば、Bと打って中央脱出とCの右辺居直りを両にらみする。白3と渡って彼我の地合いの差ははっきりし、白の勝勢が確立した。中韓に圧倒され、日本の臥薪嘗胆(がしんしょうたん)が続く世界メジャーで、一力は一昨年の夢百合杯8強、昨年の応氏杯4強、三星火災杯8強と、ひとり意地を見せている。中国で「遼神」と恐れられる速く正確な読みが、持ち時間が短い世界戦でも強みになっている。日本勢としては2005年の張栩九段以来、絶えて久しい世界チャンピオンの奪還を見据える。「自分が活躍することで、ほかの棋士も上位に残れるようになってくれたら」。次戦、世界最強の韓国・申真婿との対決に、胸は高ぶる。
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