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日本棋院理事長交代 取り沙汰される“さまざまな理由”
【2019年4月21日(日) 産経新聞
 史上最年少プロ、10歳の仲邑菫(なかむら・すみれ)新初段のデビューが話題の囲碁界で、“総本山”の公益財団法人日本棋院(東京都千代田区)トップが任期途中で交代した。経営不振を理由に3月31日付で団宏明氏が突如、辞任を発表し、副理事長だった小林覚(さとる)九段が4月2日、新理事長に選任された。任期を1年以上残していた理事長交代の裏には何があったのか。(文化部 伊藤洋一)

 ■理事長もお手上げか

 「井山裕太さんの国民栄誉賞受賞などがありながら、棋院の収益改善と囲碁人気アップにつなげられなかった。3月上旬に新年度予算が通ったことで、年度末を区切りに、責任を取ることにした」。3月29日の辞任会見でそう語った団氏の表情は、悔しさよりどこかサバサバしており、“お手上げ”といった印象も受けた。実際、日本棋院の財政状況は厳しい。日本棋院が発行する出版物の定期購読者はここ数年、1000人前後ずつ減少している。それならばと、プロの対局を観戦したり、自身が対局できるインターネット会員の増強も図るが、減少に歯止めがかからない。3000万円の赤字予算を組んでいた平成30年度の決算が約7000万円の赤字になる見込みとなったことから、辞任を決断したという。

 ■“派閥抗争”も活発化

 ただ、辞任はそれだけが原因ではなかったようだ。「昨年6月の理事改選前に、常務理事を目指す棋士が“団理事長の棋院運営を後押ししたいから、自分に投票してほしい”というメールを何十人もの棋士に送信した。一方で、ゆくゆくは棋士を理事長に据えたいと考える派閥が、(団氏支持とは)異なる人物を理事に推そうと運動していた」とある棋士が明かす。さまざまな意見、思惑が飛び交う狭間に立って苦労し、棋院を運営していく熱意が薄れていったのではないか−との見立てだ。4月1日時点で日本棋院に所属する棋士は348人。考え方が異なっても民間企業の場合、利益をあげる−との大義名分のもと、同じ方向に進むことができる。一方、個人事業主である棋士の大半が考えるのは、組織の発展というよりも、いかに快適な環境で対局に臨めるかだ。348人いれば348通りの考えがあり、思惑もそれぞれ異なる。また、ある棋士が職員に強めの叱責を繰り返したことで職員間に不満がたまり、その収束に手間取った−との情報も流れた。「理事会がある火曜日には、理事長のいらだつような声もしょっちゅう聞こえてきた。うまくいかないから怒るのか、怒りっぽいから職員がついていかず、うまくいかないのか…」と苦笑いする職員もいる。

 ■「棋士は宝」…

 東京大法学部を卒業後、旧郵政省に入った団氏は総務省官房長や郵政事業庁長官などを歴任。公益財団法人の通信文化協会理事長をへて平成27年6月に日本棋院副理事長に就いた。団氏は理事長在任中、「(理事長は)難しい仕事。役職を離れて、個人的に棋士の先生方に碁を教えてほしいよ」と漏らしたことがある。仲邑新初段に初段の免状を渡した3月26日の平成30年度合同表彰式では「棋士は宝。その宝をどう生かしていくか」と話していたように、本来なら“部下”にあたる棋士に対し、必要以上に敬意を払っていたとも取れる。ある職員OBによると、「誰もが知る著名企業の役員出身者が理事長を務めた際は、囲碁の世界しか知らずわがままなことを理事会で発言する棋士理事を、痛烈にたしなめていたそう。(棋士に対し)物分かりがよすぎて、協調性に富むタイプでは務まらないポジションなのかもしれない」と語る。昨年6月に副理事長に就いた小林新理事長にも、たびたび自身の辞任を打診していたとされる。小林氏は「“(経営が)うまくいかなくなったら辞めるから”と言っておられたが、まさか本当になるとは」と驚きを隠さない。2024年に創設100周年を迎える日本棋院。誰がトップになっても難しい局面で、大竹英雄名誉碁聖以来、約7年ぶりに棋士の理事長となった小林新理事長が、どうカジを取るか注目される。
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