トップページ > 記事閲覧
木本克弥「無理のない攻め方」
【2016年3月29日、4月5日、4月12日、4月19日 読売新聞「上達への指南」】

 攻めることは大事です。しかし、相手の石を攻めるのは気持ちがよいですが、攻め過ぎて損を重ねた揚げ句に取り逃がしては、元も子もありません。攻めながら得を図りつつ、潮時を見て引き揚げるのが肝要です。攻め方は一直線ではなく、さまざまなパターンを想定し、無理のない柔軟な策を取りたいものです。

第24期 竜星戦本戦
白 三段 安達利昌
黒 三段 本木克弥
テーマ図1図2図3図


【テーマ図】 今回のテーマは「相手の攻めが浅いか深いか」です。安達三段とは研究会が一緒で、よく打ちます。早見えで、鋭い感覚の持ち主です。白1の消しが浅いか深いかを判断して対策を立てます。「相手の攻めは浅いか深いか」の判断は重要です。相手の攻めが浅いか深いかで攻め方は変わってきます。私は「深い」と判断し、攻勢に出ました。「深い攻めをされたら攻め返し」です。

【1図】 攻めなら「黒1のケイマ」が要点です。少し怖いかもしれませんが、黒1とケイマされると白は動きづらい。攻めは外側からこれくらい大きく行きたいところです。白は中でアヤを作ろうと白2のボウシから4、6と変化しましたが、白10の当てに黒11のマクリが強手です。白は取らざるを得ませんが、黒には13と格好のコウ立てがあり、黒15(抜き返し)、黒17(白4取り)と味よくポン抜いて攻めが奏功しました。手順中、白2で白Aは「車の後押し」で、黒Bと伸びられて黒に不満はありません。

【2図】 黒1のボウシは攻めとしては気合のよく見えますが、白2、4とツケ伸びられます。黒5に白6となっては攻め切れず、失敗です。

【3図】 △の消しを「浅い」と判断し、黒1と受けるのは白2、4のツケ伸びがぴったりです。黒5に白6と飛ばれて、白は中央に出ることができるので白の消しが成功です。また、黒1でAにつけて下辺を守るのも、白Bの伸び以下白Fと飛ばれ、白の消しが成功となります。



 モタレ攻めは、本命の石に直接手を出さず、他の石に寄りかかるようにして攻めを見る手法です。直接手を出しては空回りする恐れがあるときなど、一種の保険を掛ける意味もあります。

第71期本因坊リーグ
白 七段 余 正麒
黒 七段 本木克弥
テーマ図1図2図


【テーマ図】 今回のテーマは「先に攻めの効果を得る―――モタレ攻め」です。余七段には早碁棋戦の決勝で負かされています。同い年でもあり、意識する相手です。今期の本因坊リーグ。黒1と右辺を備えたのに、白2とケイマに出てこられた場面です。黒はどこから攻めるものでしょう。右中央の白を攻めたいが、右中央の白は攻めようがない。そう判断していました。そうはいっても右中央の白を攻めたい。そういうときは右中央の白を遠巻きに攻める(モタレ攻め)が肝要です。

【1図】 黒1、3と左辺の白にもたれていき、遠巻きに右方の大石をにらみました。白は黒の意図を察知して、左辺を受けず、右辺に白4と踏み込んできたので、黒5とコスミ、白8に黒9以下強硬策に出ました。黒19と切って分断し、左辺の黒1、3の2子が利いてきました。黒大成功です。なお、白4でA以下Eと受けて左辺の地を稼ぐのは白のむさぼりです。黒は左辺が強固になったことを生かし、白Eで黒先手ですから、黒8と本格的な攻勢に転ずることになります。

【2図】 直接、黒1と襲いかかるのは、白2のコスミ、黒5と分断しましたが、以下白8となり、黒の攻めは息切れです。白が8までで手厚くなり、上方の黒一団の根拠が心配になりかねません。黒1でAと攻めるのは、白Bにつけられ、黒C、白D、黒Eで白に隅の生きを残されて、白1と逃げられます。攻めは空振りです。



 石を攻める際にとても有効な手法は、相手の急所を突くことです。これによって石の形を崩し、攻めが一層効果的になってきます。

第71期本因坊リーグ
白 七段 本木克弥
黒 九段 河野 臨
テーマ図1図2図


【テーマ図】 今回のテーマは「両方をシノグ」です。河野九段は読みが深く、形勢判断の正確さは碁界屈指でしょう。今期本因坊リーグが初手合でした。白1、3と形を整えて白は小康を保ったところ。黒にはイとロの二つの狙いがありますが、中央上の黒一団も中央下の黒一団(黒5子)も分断されています。「両方をシノグ」ためには相手の急所を突くのが有効です。

【1図】 分断された黒一団をシノぐために黒1のキリからいきました。白は2と引くほかなく、黒3とケイマで白の急所を突き攻勢に立ちました。白は4のツケ越しから6の切りが手筋ですが、黒は7と抱えて不満はありません。これによって中央下の黒5子の不安も解消されました。さらに白は8の備えが省けず、黒9以下15とついで中央上の黒一団も安定し、攻めは成功しました。黒1、白2の交換が効いているのです。黒1、白2の交換をせず、単に黒3と急所を突くと、白A、黒B、白Cのカケツギで白に好形を与え中央上の黒一団か中央下の黒一団が攻められます。

【2図】 黒1のハネ出しからいくのは、功を焦った打ち方と言ってよいでしょう。白2の切りから4、6と出るよい調子を与えます。黒7以下白10まで一本道の運びで、黒5子は取られます。なお、黒が攻めを怠って、黒1でAと中央を備えていると、白8に先着されます。続いて、黒10の押しでは白Bと伸びられて、一瞬にして黒白の攻守が入れ替わります。



 攻めの究極の目的は、隙あらば相手の石を取ってしまうというものです。しかし石を取るばかりが良い手とは限りません。攻めることによって「自分の欠陥をカバーする」というソフトタッチな高等戦術もあります。

第40期 棋聖戦予選
白 三段 本木克弥
黒 三段 大矢浩一
テーマ図1図2図、3図


【テーマ図】 今回のテーマは「攻めることによって自分を守る」です。大矢九段は研究熱心で知られますが、特に世界の流行布石を熟知しています。白には黒イとハネ出されると右下の白一団が弱くなるという欠陥があり、先に白ロと守るのでは足が遅くなります。こういうときは右上の▲を攻めることによって、右下の欠陥をカバーします。どこから攻めに行きますか。

【1図】 白1のボウシが絶好です。3から5の攻めに、黒は6と反撃してツケました。しかし白はその調子で白7から9と幸便に飛んで右下の白一団を助けるという目的を達成しました。つまり白9に石がくると、黒Aのハネ出しには白Bのカケでさばくことができるのです。

【2図】 白1、3のハネツギは、右上隅の地を確保して重厚な攻めですが、すかさず黒4とはね出されます。白5とかけても、黒6の出から10につがれると、白は傷だらけ。白11とついでも黒12に切られ、Cの断点と9下の断点を見られて白が壊滅状態になります。その際、白Aに一着があると黒12には白Bと引く手が成立し、黒Cには白Dと応じてしのげるのです。

【3図】 白1のカタツキも攻めの一手法ですが、黒2の下がりから6に飛ばれ、右辺の黒一団は攻められず、攻めの効果はいまひとつです。依然として黒Aのハネ出しが脅威。また、黒2に石がきたため、黒BまたはCの侵入があり、白には二重の不安が残ります。

(おわり)

●メモ● 本木七段は、藤沢一就八段が主宰する東京・新宿の「天豊道場」に寄宿している。寺山怜四段が独立し、いまは塾頭格。広瀬優一新初段、院生2人の4人で生活を共にしている。高尾紳路九段らも指導に寄ってくれる。「碁の勉強には大変よい環境で、もうしばらくお世話になります」。本木七段は、10歳のときから藤沢一就八段が主宰する「新宿こども囲碁教室」で学んだ。月1、2回、群馬県の自宅から片道2時間半かけて通った。ここから巣立ったプロ棋士は、今年入段した広瀬優一、上野愛咲美両初段を加え7人。院生19人も学ぶ。本木七段は、第71期本因坊リーグ入りし、三段から七段に昇段した。「リーグ入りはひとつの目標だったので、とてもうれしかった」。開幕前は強豪ばかりで全敗も覚悟したが、終わってみれば5勝2敗の2位。挑戦権獲得はならなかったが、大健闘の成績だった。本木七段は、3年間務めたNHK杯トーナメントの秒読み係を卒業した。初めての収録の時は、自分も参加している、と感動したという。「局後の検討を聴くのが大変勉強になりました」。今春開幕の第64回大会には対局者として出場する。「精いっぱいがんばります」。
コメント終了
Page: [1]

題名
会員名
会員ID :
会員パスワード
コメント

   クッキー保存