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依田紀基元名人の妻が「夫よ、お金返して!」ドロ沼訴訟合戦
【2018年4月12日 週刊文春 2018年4月19日号より】


依田紀基九段
 
依田紀基九段。タイトル獲得35期を誇る超大物で、囲碁界きっての無頼派。彼の妻もまた囲碁棋士だが、今、この夫妻の間に“定石”の通用しない激しい争いが持ち上がっている。消えた3000万円の行方、子供たちの叫び――この“死活問題”に白黒はつくのか。

◆ ◆ ◆

 井山裕太七冠が1月に国民栄誉賞を受賞。祝賀ムードがまだまだ残る春の囲碁界で、とんだ“盤外戦”が繰り広げられている。しかもそれが夫婦棋士として知られる2人の間でだというのだから穏やかではない。「長い間耐えてきましたが、最近になって依田が書籍などで身勝手な情報を発信しているのを知りました。囲碁界には、事実とは全く違う話を信じ込んでいる方がたくさんいます。子供たちと何度も相談しましたが、本当のことを知っていただきたいと決意しました」 疲労を滲ませそう語るのは、女流囲碁棋士の原幸子四段(47)。“依田”とは彼女の夫、依田紀基九段(52)である。今、夫妻の間では3件の民事訴訟が進行中だという。

依田元名人は“無頼派の天才”

小沢一郎氏(右)と故・与謝野馨氏に指導する依田

 依田は名人4期、碁聖6期、十段2期など計35のタイトルを獲得した、近年の囲碁界では十指に入る実績を残した名棋士。ベテラン囲碁観戦記者が語る。「依田は北海道の出身。小学4年生の時に囲碁に出会い、1年後にプロを目指して上京。1980年、14歳でプロ棋士になりました。囲碁に真摯に向き合う棋士です。一方で麻雀やバカラなどのギャンブルや、酒が好きで、故・藤沢秀行先生に可愛がられていました。藤沢先生の衣鉢を継ぐ“無頼派の天才”です。政治家の小沢一郎氏の囲碁の指南役としても知られています」天才肌ゆえか、囲碁界でもその“奇人”ぶりは際立っているという。「タイトル戦に遅刻したり、帰りの新幹線チケットを無くしたり。昔はネクタイを結ぶことができず、テレビ対局では首からぶら下げてきてスタッフに結んでもらっていた。師匠の安藤武夫先生が依田さんを『才能を持っている人間は何かが欠けているものだ』と評したこともあります」(同前)
ツイッターでも「酒の失敗は怖いなあ。僕はシラフでもおかしいから酒飲んでもあまり変わらないと思うけど」などと“迷言”を連発。昨年11月に刊行した自伝『どん底名人』には、「歌舞伎町漬け」「上昇から一転、バカラ地獄へ」など、破天荒なエピソードの数々が綴られている。3月9日にはバラエティ番組「密着!  なぜソッチの人生選んだの?」(フジテレビ)に出演。全盛期に稼いだ数億円の収入を使い果たした末に住んでいるという、30平米の自宅ワンルームを公開。家族と別居し単身生活していると明かしたものの、その理由は語らなかった。

「株でスッカラカンになった」

入籍発表時の夫妻 c共同通信社

依田と原が結婚したのは98年。依田は再婚だった。原は88年にプロデビュー。毎週日曜に放送されるNHK杯の司会を務めるなど、囲碁ファンの人気を集める若手女流棋士だった。現在、棋士としては休場中だが、日本棋院の常務理事を務めている。結婚から20年。2人の間には高校2年の長男を頭に3人の息子がいる。原がいう。「依田が語るエピソードの陰で、特に金銭にまつわる父親の裏切りによって、どれだけ子供たちが傷ついているか……。依田は、そこに思いを致したことがあるのでしょうか」

最初のトラブルは2004年。依田はこの年、名人位を失った。また『どん底名人』には、とある人物に紹介され仕手株に手を出したと書いている。「収入は多い時は1億円近いこともありましたが、依田は入ってくるお金は全部使ってしまう。住民税や保険料の分まで使ってしまうんです。タイトルを失ったことで収入が減り、更に株の資金用に私の母にも『3カ月で1割殖やして返す』と言って440万円借りていました。ある日、真っ青な顔をした依田が、『株でスッカラカンになった。麻雀仲間などから1000万円借りているがもう返せない。後始末をして欲しい』とキャッシュカードを押し付けてきたんです。取り立てがくるのではと恐ろしかった。依田の父に相談し、老後資金の1000万円を借りたこともあります。04年に依田が使ったお金は7700万円にも及んでいました。依田が個人で浪費した額です」

それからの数年、毎月の引き落としをいかに乗り切るかが原の重いテーマになった。「結婚当初は私のマンションに住んでいて、月100万円を生活費として渡されていましたが、03年にマンションを購入してから60万円に下げました。当時、依田の収入はひと月あたり約400万円でした。それからも生活費は段階的に下がっていき、14年にはついにゼロになりました。私個人のお金は3000万円ありましたが、殆ど税金の支払いに充てました。収入は依田と私で2000万円ほどありましたが、税金や借金の返済に充てるお金が全く足りない。そのためにまたお金を借りるという繰り返し。銀行は税金を払うためにはお金を貸してくれないということを初めて知りました。

住宅ローンの借り換えなど、いろいろ工夫をしながら数年間凌いできましたが、10年に依田が名人と本因坊の挑戦者を決めるリーグ戦から落ちた頃から、また様子が変わりました。後になって分かったのですが、依田は04年以降も証券会社の口座に2000万円ほどの“隠し金”を持っていたんです。私たちが依田の借金返済に追われている、その時期にです。ところがおそらくそのお金を使い切り、収入もさらに下がったことで金銭的な不満をぶつけるようになった。『僕にお金を渡さないから手合い(対局)で勝てない』『遊べないから勝てない』と。愕然として『あなたが作った借金の後始末が済んでないんだよ?』と言っても『昔のことじゃないか!』と聞く耳を持ちませんでした」

そして15年2月。仕事で北海道に出かけていた依田からメールが届いた。「『帰ったら引っ越すから。引っ越し先も決めてある』という内容でした。それまで一度も引っ越しなんて話は出ていません。意味が分かりませんでした。その後も『家の名義は僕だから、家族が反対しても無理だから。弁護士から説明させるから会いに行って』と一方的な連絡がきました。事態を呑み込めないまま弁護士さんの許に出向くと、依田の借り入れが2億円を超えており、家計は破綻しているので自宅マンションを売って借金返済に充てるべきではないか、と説明を受けました。ですが、その時点で借金はかなり圧縮していました。1億3600万円の住宅ローン残債を除けば、借入先は互いの両親や日本棋院などで、変なところはありません。マンションを売る必要はない旨を説明し、弁護士さんも納得しました。ところがしばらくして再度呼び出され、新たな提案を受けたのです。それは、マンションを売ったお金は弁護士が預かり、借金返済も弁護士が行う。依田の手に渡すことなく、基本的には子供たちの学資に充てる、というものでした。子供たちの将来のためなら……と売却に同意したんです」

「すぐ売らないとだめだ」
 引っ越しは夏休みをメドに考えることになったが、2カ月後の4月に事態は急展開。依田の知人の、マンションの売買を仲介する業者から「マンションを買いたいという客がいる。早くしないと他の物件を買ってしまう」と報告があったというのだ。「依田は『ここで売ろう。すぐ売らないとだめだ』などと発言、私は大急ぎで転居先を探しました。長男が区立中学に通っていたので区外に引っ越す選択肢はなく、依田の囲碁の勉強部屋も確保するため、家賃46万円の賃貸マンションに移ることに。高額ですが、それまでのローンからは20万円ほど安くなりました。依田は『引っ越しでバタバタして碁の勉強ができない』と近くに家賃15万円ほどのマンションを借り、そこで生活を始めました。しかし依田は、マンション売却で得たお金を、約束を破り私物化しました。約2億円からローン残額を返済し、税金を払い、依田の個人的な借金を返済しても3000万円が依田の元に残ったことになります。子供たちは、元々積極的でなかった引っ越しを強要されたことに加え、自分たちの学資を取られ、何より父親に騙されたと感じ、大きなショックを受けました」


弁護士が依田に送った書状

 同年6月には弁護士が依田に書状を送っている。そこには残額を預かるという約束を依田が違えたことに対する無念とともに「父親としてまた夫として、奥様とよく協議され、お子様方の将来のために『残金』の使い途をお決めいただきますようお願い申し上げます」と綴られている。原がいう。「その年の7月頃には、依田は家族に黙って勝手に9月末でのマンション解約を申し入れました。『別々に暮らす家族のお金を僕が払う理由がない』と。依田が一方的に家を出て行っただけで、それまで一度も別居や離婚についての話し合いなどしたことはありません。私にお金があればいいんですが、私個人のお金は依田の借金返済のためにすでに使い果たしている。借入枠も使いました。家は私の名義で借り換えることができましたが、今もまたお金を借り入れて何とか暮らしているのが現状です」

 依田は、「婚姻費用の分担請求調停」を裁判所に求めた。養育費などの負担を軽減する目的だったと思われるが、調停の結果裁判所は月々46万円の支払いを依田に命じた。また、依田は子供との定期的な面会と、離婚を求め、訴訟を起こしている。一方の原も、これまでの結婚生活中に依田に代わって支払った金の返済などを求め訴訟を起こしている。

子供たちの悲痛な叫び

2005年の碁聖就位式

 最も懸念されるのは、両親の争いに3人の子供が巻き込まれている点だ。「依田は、マンションの売却金から充てる約束だった次男の受験料や入学金の支払いを再三拒んだだけでなく、今年4月からの学費も支払っていません。04年から通帳を私が管理したことで、自分のお金を私が取ったように考えているんでしょう。学費を納める代わりに通帳を開示しろという連絡がきました。私は04年以降の通帳のコピーを依田の弁護士に送り、出入金の詳細も添付しました。でも、そもそも今私がお金を持っていたら、依田に頼むまでもなくすぐに息子の学費を払います。そんな当たり前のことも依田には分からないんです」

 子供たちは、この2年ほど、父親に再三メールを送っている。そこには「本当は僕たちの学費をマンションを売ったお金から先に分けるという約束だったんですよ」「僕が小さい頃から、学費のためにとっておいていたお金も、パパが全部博打して税金等が払えなくなって補填に回ってしまったのを通帳で確認しました」などの悲痛な叫びがある。原によれば、中学3年生の次男は昨年秋から「学費を払っていないのに学校には行けない」との心境から不登校に陥っており、今月の始業式にも参加できなかったという。『どん底名人』を書いた理由を、「人生で学んできたことや、掴んできたことを息子達に伝えたい」と綴っている依田は、どう思っているのか――。本人に聞いた。

――マンションを売った金をお子さんの学資に充てなかったのはなぜか。

「この問題はいろんなものがごちゃまぜになってる。根が深いんです。僕は天に向かって恥じるようなやましい事は何もしていません。ただ、やり方はまずいところがあったなとは思います」

――それはどういう点で? 

「人間は感情の動物なので……。まあ価値観が違ったんです。原の真意がわからないと話せない」

 あまりに深き溝。この問題に“白黒つく”日は来るのだろうか。

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