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もはやプロ棋士でも勝てない!AIの強さの源泉は「自己分割」
【2018年4月11日 ダイヤモンド・オンライン(大村あつし)】

 東京オリンピックの喧騒が去った2020年、あなたはどんな生活をしているだろうか? AIによってシンギュラリティは起きるか? ヒト以上にやさしいAIは登場するか? ヒトとAIはどう共存していくのか? IT書籍の売上累計が150万部を超える中、2007年に処女小説『エブリ リトル シング』が17万部のベストセラーとなり、中華圏・韓国での翻訳や2回の舞台化(2008年井上和香、2009年内山理名主演)された作家・ITライターの大村あつし氏。構想・執筆に2年かけた注目のビジネス青春恋愛小説『マルチナ、永遠のAI。――AIと仮想通貨時代をどう生きるか』が出版され話題となっている。ビットコイン、ブロックチェーン、ディープラーニング……正確な技術論と、その道の世界的権威の見解をもとに緻密に描いた作品で、SFではない、というから注目だ。実物通貨と仮想通貨、日常と非日常、ヒトとAIの境界線がどんどんなくなりつつある今、私たちはどうやって生きていけばいいのか? AIは苦手というあなたも、これさえ覚えておけば、周囲から尊敬の眼差しを浴びるかもしれない。2000年代中盤から「AI」と「IoT」を研究し続けてきた大村氏の特別寄稿をお送りする。(構成・寺田庸二)

● AIは、自分で問題を考え、 自分で解いて成長している
 AIというと、第4回、第5回連載で説明した「ディープラーニング」や、AIがやがて人類をはるかに凌駕する知能を手に入れる「技術的特異点」、すなわち「シンギュラリティ」は果たして起きるのか、といった話題ばかりがどうしても取り沙汰されます。しかし、今回紹介する「AIの自己分割」も、極めて大きなAIの特徴ですので、これを機にぜひとも頭の片隅に入れていただければと思います。

 まず、結論から述べますが、AIが成否判定を伴うような学習を行う場合には、AIは自分自身を分割することがあります。といってもピンとこないかもしれませんが、AIと人間との違いさえ実感できてしまえば、それほど難しい話ではありません。たとえば、人が一人で学習する場合、自分で作成した問題を自分で解いても学習効果はまったく期待できません。それは、答える側もすでに答えを知っているからです。しかし、ここがAIと人との決定的な違いなのですが、AIの場合には、問題に答える側と、採点する側を内部的に完全に別プロセスに分割することが可能です。言い換えれば、「1つのAI」という入れ物の中に、まったく人格が異なる2つのAIが内在しているイメージです。

● 「AIの自己分割」とは?
 こうして「別人となったAI」は、自分で作った問題もまったく新しい問題として取り組むことができます。そして、答えを知らない自分の出した解答を、答えを知っているもう一人の自分が採点を行うというわけです。この仕組みを「AIの自己分割」と呼びます。

 『マルチナ、永遠のAI。――AIと仮想通貨時代をどう生きるか』では、AIを搭載した「AIDON」(アイドン)という名のペットロボットが登場します。しかし、「AIDON」は、最初は何もできない、ただのガラクタのような存在です。ところが、歩く、走る、吠える、眠る、お手、おねだりをするといった「分類されたひな形」の動きができるようになるまでディープラーニングをさせると、やがては本物と区別のつかない愛らしい「犬」に成長します。ただし、この「AIDON」の訓練や、その動きの合否判定を人が24時間、365日観察するのは現実的な話ではありません。こうした動きを伴う学習の場合には、片方のAIが目的に応じた動作を行い、もう片方のAIは、その動作をビデオ映像や、内部的な3D空間によるシミュレーション映像として見ることで、「分類されたひな形」に合致した動きなのかどうかの合否判定をします。そうした作業を合格するまで、もしくは、合格してもスコアがより改善するまで何回も何回も繰り返します。結果、ペットロボット型AIは、人の観察という手間を省いて、自ら本物のペットのように成長することが可能なのです。

● AIは、人が2万年かかる自己対戦で 腕を磨いてプロ棋士に勝った!
 「AIの自己分割」というと、有名な逸話があります。それは、世間の耳目を集めた佐藤天彦(あまひこ)名人とAIの「ポナンザ」による2017年の第二期電王戦です。棋士として最高位に君臨する佐藤名人と、プロ棋士相手に2年間無敗の「ポナンザ」との二番勝負でしたが、結果は「ポナンザ」が2勝と圧勝したことをご記憶の人も多いでしょう。酷な話ですが、私たち人間は、もはや将棋の世界ではAIに到底太刀打ちできない現実を目の当たりにしたわけです。そして、このときに「ポナンザ」が用いていた学習方法が「自己分割」でした。「ポナンザ」は、自らを二分割して自分自身と戦う「自己対戦」を700万局もこなして、人がまだ発見できていない未知の手を次々に習得していったのです。この700万局とは、もし人が休むことなく毎日1局対戦し続けたとしても2万年かかる局数であり、羽生善治永世七冠はポナンザのこの自己対戦を「シャベルとかスコップとかで掘っていたのが、急にブルドーザーで一気に開拓していくような感じがある」と評しています。

 囲碁に目を向けても、すでに2016年にGoogleの「アルファ碁」(AlphaGo)が、イ・セドル九段を破っています。諸説ありますが、囲碁の歴史は2000年ともいわれる中で、AIはわずか数年の学習で人類の叡智を超えてしまったのです。この「アルファ碁」は、当初は人が考えた定石を入力して教育していました。ところが、試しに定石を教えずに完全に自己学習をさせたところ、「定石を教えた場合よりも早く」「定石を教えた場合よりも強い」AIが誕生したという話もあり、そうなるとこれはもはや、AIにとっては人類の叡智すら逆に足かせになるほどの独自の学習理論を獲得した証左ということになります。実際に、人は今なお「なぜ、『アルファ碁』はあの局面であの手を打ったのか」が証明できずにいます。

● AIの本当の凄さとは?
 私は、これはもはや「特化した分野でのシンギュラリティ」だと思うのですが、みなさんはどのようにお考えでしょうか。いずれにしても、AIは飽きもせず、疲れもせずに、ヒトの2万年分の経験を自己分割によって経験することが可能です。結果として、ヒトを凌駕する知識を手に入れられるのです。AIの本当の凄さは、「努力の天才である」という点に尽きるのではないでしょうか。

 この「AIの自己分割」のもとになっているディープラーニングをする「子どものAI」。一方で、ヒトが一から教えて丸暗記させる「大人のAI」。同じAIといえども、両者でどれほどの違いが出るのかは、第1回連載の中で「子どものAI」である「Google翻訳」と、「大人のAI」である別の翻訳サービス(X翻訳)に同じ英文を日本語に翻訳させて、まったく異なる結果になるケースを紹介しています。現在一番人気の第2回連載「近い将来、『税理士や翻訳家は失業』という予想は大間違い」と併せてお読みいただけたら、望外の喜びです。

大村あつし
IT書籍から小説まで幅広く手がける作家・ライター。エクセルのマクロ言語の解説書の売上部数は150万部を超えている。1997年に、その後国内最大規模となるマイクロソフト・オフィス製品のポータルサイト「moug」を一人で立ち上げる。2003年にはIT系資格試験の「VBAエキスパート」を中心メンバーとして創設。2007年に処女小説『エブリ リトル シング』が17万部のベストセラーとなり、中華圏や韓国での翻訳出版や2回の舞台化(2008年井上和香、2009年内山理名主演)。『エブリ リトル シング』は、第1話の「クワガタと少年」が多くの私立中学の入学試験に出題され、全国の予備校で話題となり、YouTubeで再生回数が18.5万回の人気動画に。第2弾小説の『無限ループ』も5万部に。2006年に、TOKYO MX(東京メトロポリタンテレビジョン)やテレビ神奈川など全国13の独立放送局で、AIとIoTをテーマとした90分の特別番組「IT その扉の向こうに」の司会に抜擢されたことでAIやIoTに傾倒する。著書に、ベストセラーとなった『かんたんプログラミングExcel VBA』シリーズ(全16冊)、『Excel VBA本格入門――日常業務の自動化からアプリケーション開発まで』『人生は数式で考えるとうまくいく』『仕事がうまくいく0.7の法則』など多数。静岡県富士市在住。
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