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井山裕太、常識破りの妙手 第42期名人戦第4局
【2017年10月5日 朝日新聞(大出公二)】

第42期囲碁名人戦七番勝負第4局(主催・朝日新聞社、協力・株式会社明治)は、挑戦者の井山裕太六冠が高尾紳路名人を下して3連勝し、名人奪還とともに「奇跡の中の奇跡」とされる七冠復帰にあと1勝と迫った。連覇をねらう名人の渾身(こんしん)の勝負手を、囲碁の常識を覆す切り返しの妙手でしのぐ屈指の好局だった。

■鮮やか犠打 名人の勝負手、切り返す

図1、図2、図3

対局1日目、先手の黒番の名人に見損じがあり、形勢が悪化した。「普通に打っていたら勝てない」(名人)と、2日目に入って左辺から左上に波及する戦いで勝負手を連発。白番の挑戦者も一切妥協せず、最強の手で応え、黒白双方の石が複雑に絡み合う大乱戦になった。それが図1だ。名人は1時間2分の大長考の末、そのまま昼食へ。対局再開の午後1時、着座するや101手目の黒1をノータイムで打ちつけた。検討陣の予想になかった剛手で、挑戦者を悩ませた。△の白石は三つに分断され、いずれも根拠のない浮石になっている。すべて助け出すには、槍(やり)のように白の懐深く突き刺さる▲四子を捕獲するしかないが、1手では捕まらない。続けて2手打てば取れるが……挑戦者の手が止まった。考えること31分、挑戦者は図2の白2にそっと石を置いた。名人はかさにかかってノータイムで黒3と押さえつける。その1分後、挑戦者は白4と切った。隣の検討室のモニターにこの手が映し出されると、詰めかけたプロ棋士の間からどよめきが起きた。
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<「見たことない」> 「えっ」「なんだこれ」「見たことない」。白4の切りが常識外の手であることは、アマチュア級位者でもわかる。黒Aと打たれれば、白2か△のどちらかが取られることになるのは、すぐに読める。挑戦者の意図はどこにあるのか。名人は相手のねらいを見抜いたようだ。すぐに図2のAと打たず、図3の黒5とアテて相手の出方をうかがう。しかし白6のアテにはもうつきあいきれない。相手をしていると次に白8に打たれ、今度は▲の身動きがままならないのだ。ついに名人が決行した黒7を挑戦者は待っていた。白8と裏からアテて黒9を強制し、白10へ。なんと、図1で不可能とされた2手連打で▲を捕獲しているではないか。△の着手のねらいは、これを実現するための犠打だったのだ。△や白6を取られた姿は酷(むご)いが、それ以上に▲を手中に収めた価値は大きい。これにより散在していた白の弱石はすべて一つになり、不安要素は一掃された。
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<「納得のいく碁」> 名人の剛手を見事に切り返して挑戦者は優勢を堅持。そのまま勝ちきった。開幕初戦を落としたものの、第2局から3連勝。一気に名人をカド番に追い詰め、通算600勝目の記念譜にもなった。「納得のいく碁が打てている。七冠復帰は意識せず、次も精いっぱい打ちたい」。名人もスコアは離されたものの、闘志は変わらず盛んだ。これまでの4局の内容に手応えを感じている様子で「7局までいきますよ」と、局後の関係者の打ち上げに深夜までつきあった。決戦の舞台は10月16、17日の静岡県熱海市に移る。
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