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グールドへの憧れ=大橋拓文(囲碁棋士)
【2017年8月14日 毎日新聞東京夕刊】

今回、私のリラックスタイム、気分転換についてお話しします。私は音楽、特にピアノを弾くのが好きです。対局に負けたり心が荒れたりした時は、ショパンの「革命」やベートーベンの「月光第3楽章」などの激しい曲を弾いたりします。思い悩んでいる時はシューマン、少し元気な時はモーツァルト。ベートーベンの短調の曲を聞くと、いったんものすごく暗くなりますが、最後にそこから復活する元気が出てきます。他にもバッハ、ショパン、リスト、ドビュッシー、ラフマニノフなど、ちょっとマニアックなところではアルカンなどが好きです。好きなピアニストはといえば、ホロビッツ、フジ子・ヘミング、リヒテル、ミケランジェリ、バックハウス、ディヌ・リパッティ、マルタ・アルゲリッチ−−列挙すればきりがありませんね。

囲碁には詰め将棋ならぬ、詰め碁という問題形式の学習法があります。私は詰め碁の問題をつくるのが好きなのですが、ひらめいた問題の石の配置が、なんと、ベートーベンの交響曲「運命」のモチーフ「ジャジャジャジャーン」の音符の並びと同じ形でした。なんだかうれしくなって、その問題をベートーベンの故郷、ドイツのボンで行われた囲碁大会で披露。するとドイツの囲碁雑誌に掲載され、思わぬ交流が広がりました。

持っているCDで一番多いのはグレン・グールドです。グールドといえば、鬼才ともいわれる個性的なピアニスト。どっぷりはまったのは15歳ぐらいのころでしたか、厳格さの中にきらめくロマンが魅力的でした。また王道とは違う独自の価値観、スタイルを追求する弾き方に惹(ひ)かれました。思えば自分の囲碁と似たものを感じたのでしょうか。グールドは録音にも精力的でした。コンサートは死んだ、と言って録音活動に籠もってしまったグールドですが、いち早く時代を察知していたとも言えるでしょう。私が囲碁AIに早くから興味を持ったのは、もしかしてグールドへの憧れがあったのかもしれません。
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