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<eスポーツ>ガラパゴス化した日本 普及目指すわけは?
【2017年6月17日 毎日新聞】

コンピューターゲームの腕前を競い合う競技「eスポーツ」の団体戦リーグ「日本eスポーツリーグ」(毎日新聞社後援)が創設2年目を迎え、現在、開催中だ。今年は6チームが参戦し、サッカーゲーム「FIFA17」(PS4)、格闘ゲーム「BLAZBLUE CENTRALFICTION」(PS4)、チーム対戦型シューター「Overwatch」(パソコン=PC)の3タイトルで総当たり戦を繰り広げており、公開の場で開催される予定の決勝戦(日時未定)で第2代王者が決定する。eスポーツは2022年からアジア大会の正式競技となることが決まっており、五輪種目を目指す勢い。発展するeスポーツの現状について、同リーグを主催する「eスポーツコミュニケーションズ」(東京都渋谷区)の筧誠一郎代表に聞いた。

 −−世界のゲームの現状を教えてください。

 ◆月間アクティブプレーヤー数や年間賞金総額などを基に世界ではやっているeスポーツゲームソフトを集計したランキング(ドイツのeスポーツ向けソフト開発会社「Dojo Madness」調べ)があるのですが、上位に入っている日本のゲームは「スマッシュブラザース」(任天堂)だけ。あとの16タイトルは全部海外のゲームなんです。これを見ると日本は実はゲーム大国ではないんです。世界で遊ばれているゲームソフトの中で、日本のゲームソフトが占める割合は売り上げで10%(eスポーツコミュニケーションズ調べ)くらい。15年くらい前は日本のゲームソフトは60〜70%(同)あったのですが、この15年でeスポーツの発展とともにどんどんシェアが下がっていったんです。

 −−どうしてそこまで落ちたのですか。

 ◆日本ではどの家庭にもゲーム機があって、家族や友人と楽しくプレーできればいい、もしくは一人で黙々とできればいい、というレクリエーションだったのです。一方、PCゲームはオンライン化され、家にパソコンさえあれば、世界中の誰とでもつながって競技できる。そういうシーンが欧米では主流だったので、競技として成長していった。競技として進むと拡大の一途をたどるのはある意味必然です。より参加しやすい大会、より人に見せて楽しんでもらえる大会が生まれれば、感度の高い若者が集まり、そういった層にアプローチしたい企業がスポンサーになります。更にそこでお金を落としてくれればビジネスとして発展していく。

 一方、日本のゲームはファミリーエンターテインメントとして発展したので、仲間うちや一人で楽しくやっていればよく、そこから拡大する必要がないため、競技にならず、基本的にゲームソフトはその後の展開は考えずに売り切っておしまい。だから日本は世界のeスポーツシーンの中でガラパゴス化したんです。ただし、ゲームセンターを中心とした格闘ゲームでは、見知らぬ者同士が戦う競技性があったため、世界で活躍する選手が生まれていきました。

 −−そのガラパゴス化した日本でeスポーツの全国大会をやる意義は。

 ◆日本におけるサッカーもかつてはそうだったんです。野球がナンバーワンの競技で、サッカーは五輪でやるもの、お金になるものではないと思っていた。その一方で、子供たちの世界では漫画「キャプテン翼」が人気となり、街にはサッカー少年があふれ、野球少年をしのいでいたのですが、それを知っている大人はほぼいなかった。Jリーグができ、そこでみんなサッカーかっこいいとなった。だけどワールドカップに出たことがない。挑戦しても弱くて負けるわけです。

 今のeスポーツも一緒で、ゲームをやっていない子供はいない。ですが、プロになって生活ができるなんて誰も考えていないわけです。プロになって生活ができて、それが名誉になったり称賛されるなら、そっちの世界に行けばいいじゃないかという感覚が出ると思うのですが、まだ誰もそれを知らない。それを知ってもらうことでかなり状況が変わるんだろうなと思っています。

 −−素地はあるのですか。

 若者は既にeスポーツに熱狂し始めています。たとえば早稲田大学のeスポーツサークルの部員は150人、慶応大学70人、近畿大学100人。早慶戦とかやっているわけです。若者はみんな知っているけど大人は知らない。(世界的に有名なプロゲーマーの)ウメハラ(梅原大吾)さんを信仰しているのは中学生とか高校生が多いんです。僕がウメハラさんと対談したことがあると言ったら、僕に握手してくださいと来る中学生がいるくらいカリスマになっている。これからのシーンを作っていくうえでかなり重要な部分です。そうしたeスポーツシーンに熱狂する人たちを中心に爆発していくわけなんです。その爆発できるシーンの後押しをしてあげられればいいなと思っています。

 ゲーム「リーグ・オブ・レジェンド」(ライアットゲームズ)のジャパンリーグが3年前にスタートしました。当初、観客は100人でしたが、今は3000人弱のチケットが即完売です。今度は4000〜5000人規模の会場でも大丈夫でしょう。今、eスポーツのシーンは駆け上がっているんです。大人が見えていないだけなんです。この事実がどんどん積み重なれば……。

 −−そもそもスポーツなのですか。

 ◆スポーツという言葉には競技という意味があるので、競技するものは囲碁だろうがチェスだろうが、100メートル走だろうが、全部スポーツという言葉の中に入る。その上でeスポーツというものはデジタル社会の中に現れた新しいスポーツ、競技なのです。太古の昔からスポーツは常にあって、狩猟時代は肉体を使ったスポーツが古代オリンピアのころからあった。武器を使うような時代になって、テニスや野球など道具を使うスポーツが出てきた。そして工業化社会になって車でレースするようなモータースポーツというものが出てきた。それが、情報社会になってコンピューターというものになった時にデジタルeスポーツというものが出てきたわけです。

 −−日本人のスポーツ概念でいうと、手しか動かしていないものがスポーツかと。

 ◆運動という観点でみたらそうなのですが、モータースポーツも手首と足首しか動かさないが、自分の意志によるアクセルの踏み込み方とか、ハンドルの回し方で、車が人と一体化して動くから、そこに共感性があるわけです。デジタルも同じで、指先から画面に対して反応が出て、自分の肉体を扱うがごとく行われる。ボクシングと同じように自分の肉体を使って戦っているという共感性があるから競技として成り立って、見ている人が熱狂する。それが新しい情報化時代のスポーツとしてみなさんに受け入れられているのです。

 モータースポーツでいえばものすごく速いスピードで走ることに快感を覚えるわけですよね。デジタル化することによって、画面の中にいるキャラクターが魔法のような技を使ったり、ものすごく遠くにやりを投げて敵を倒したりとか、自分ができないなにかを代わりにやってくれる。100メートル走を見てなにが面白いかというと、自分ができない9秒台で走る人間を見てわくわくするわけですね。モータースポーツも時速300キロで走る車を見て、それを寸分の狂いもなく操作するドライバーを見て興奮するわけですよね。eスポーツも同じでデジタルの中で自分ではとても出せないような技を出す人間、瞬時の判断をするプレーヤーの判断力だったり、反応速度だったり、読み合いを見て、みんなこれはすごいとなるわけです。それがeスポーツの本質だと思っています。

 −−観戦の魅力は。

 ◆画面上で躍動するキャラクターたちは、操作している本人と一体化していて、そこにはプレーヤーの個性がある。すごく攻撃的とか、守備に徹しながらワンチャンスを狙うとか。たとえばサッカーのパブリックビューイングですが、ワールドカップの時に行ってみると、本番の会場と同じような応援をしているわけです。それは大画面に向かってなんですけれど、画面の中の選手たちが本物だと認識しているから、応援できるわけです。これがAI(人工知能)同士で対戦していたらそこまで熱狂しないわけです。観客はキャラクターの向こうにいるプレーヤー本人を応援するのです。

 −−ゲームをやったことがない人にも楽しめるのですか。

 競技を知らないから応援できないのかというと、それは演出と実況解説次第です。ゲームを知らないとかやったことがないということは実はあまり関係なく、例えばアメリカのスーパーボールを見に来る客のほぼ半分はルールを理解していないとよくいわれます。大男がぶつかって、演出が派手で、楽しんで、よく分かっていないけれど、とにかく応援する。日本でもかつてラグビーがそうでした。若い女性がスタープレーヤー見たさに国立競技場に殺到し、チケットが取れないというブームがありました。ルールをたいして知らないけれどみんな見に行きたい。そこは演出だったり、皆の間で話題になったりということで、そこから初めて競技を知るということがスポーツの側面としてあります。その上でナショナリズムだったり、自分の地域のチームを応援するとか、自分との関係性が深くなれば、応援の仕方はどんどん変わっていきます。

 −−世界での人気度は。

 ◆「リーグ・オブ・レジェンド」は月間のアクティブプレーヤー数が1億人を超えています。「Overwatch」(ブリザード・エンターテイメント)はプレーヤー数3000万人(17年4月末現在)、「FIFA」(EAスポーツ)はプレーヤー数2100万人(17年3月末現在)です。

 競技としてのeスポーツは、アジア室内競技大会に07年から正式種目として3大会連続で採択されていましたが、今年の開催国・トルクメニスタンはネット環境が悪く、ゲームが普及していないこともあると思いますが、公開種目となります。アジア大会では18年(インドネシア・ジャカルタ)で公開種目、22年(中国・杭州)から正式種目になります。現在、日本eスポーツ協会は日本オリンピック協会(JOC)への加盟を目指しています。五輪競技への採用もうわさされていますし、オリンピックでeスポーツが正式種目として採択される実現性は高いと思っています。

 −−現在、日本eスポーツリーグが開催中です。見どころを。

 ◆昨年、サイクロプス大阪が優勝したのですが、準優勝の東京ヴェルディがどれだけ威信を懸けて盛り返してくるか。他のチームも補強したり、選手を入れ替えたりと優勝を目指して頑張っていますので、どこが足をすくってもおかしくない状況です。個人戦の行方も注目です。各チームの個々の選手もオフシーズンのいろいろな大会で大活躍しているので、その成長をぜひ見ていただきたいと思います。

 −−注目の選手は。

 ◆リーグ代表の立場としてはもちろん全選手なのですが、個人的には前期、格闘ゲーム部門を制したインフィニティ大阪の「フェンリっち」選手(庄子生さん)に注目しています。先日、大きな大会で大接戦の末の逆転劇を演じて優勝したりとますます活躍の場を広げている選手です。リーグ戦での競技ルールは「5先」といって、先に5勝した方が勝ちですが、フェンリっち選手は先に2回負けてそこから必ず5連勝するのです。2回負けているうちに相手がなにをやってくるか全部わかるようなのです。相手がそこから修正して違うことをやろうとしても全部読まれる。格闘ゲームは読み合いが重要です。ここでこういう下段のパンチを出してくるだろうと予測し、上段のパンチを繰り出すとか、相手はここでこの技を出すから、より到達速度の速い技を出そうとか、そういうことを瞬時に考えているわけです。オフラインの試合だとプレーヤーたちは試合が終わった後、感想戦を始めるんです。直前の試合だと全部覚えているわけです。「あれ狙っていたわけ?」とか「あれはそうではなくて、こっちを狙って」「あーなるほど」とか。舞台裏がすごく面白いですね。リーグの決勝戦はオフラインでやるので、そうした場面も見られます。

 −−最後にeスポーツに懸ける思いを語ってください。

 ◆ゲームのうまい人は、子供の時はみんなヒーローなんです。野球がうまい、サッカーがうまい人と同列なんです。それが中学、高校と続けて一生懸命やっていると、なぜか今度はオタクと呼ばれる。ゲーマーだけ後ろ指をさされるわけです。07年にeスポーツ日韓戦をやった時、日本がボロボロに負ける中で、サッカーゲームの「ウイニングイレブン」(コナミデジタルエンタテインメント)で対戦した、あるプレーヤーが韓国選手に唯一勝ったんですよ。そのニュースがテレビで流れ、高校の時の友達から「テレビ見たよ」と電話がかかってきたそうです。褒めてくれるのかなと思ったら「お前まだあんなことやっているのか」といわれたそうです。何かを一生懸命やった子がそういうことで偏見にさらされたりするのはおかしい。称賛されるべきだし、自分もゲームを何作か作っていた側として、そういう人たちが正当に評価される風景が欲しいなと思った。彼らが輝ける場所を作るためにも、eスポーツの魅力を広めていきたいと思っています。
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