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将棋の藤井聡太王位と囲碁の関航太郎天元が語り尽くす タイトルホルダー対談
【2022年2月7日(月) 東京新聞(対談は昨年12月末に開催、聞き手は新聞三社連合・森本孝高記者)】
 四冠を持つ将棋の藤井聡太王位(19)と、初の七大タイトルを獲得した囲碁の関航太郎天元(20)。東京新聞が主催する王位戦と天元戦の若きタイトルホルダー同士の対談が実現しました。人工知能(AI)を駆使して深い研究を行う同世代の2人が、盤上への向き合い方、AIの活用法、師匠との関係など、多岐にわたる話題で語り合いました。紙面に収まらなかった内容も含めた完全版で、たっぷりとお届けします。

 ふじい・そうた 2002年、愛知県出身。16年、史上最年少の14歳2カ月でプロ入り(四段)。20年に初タイトルの棋聖を最年少で獲得し、続けて王位も奪取。対談時は竜王、叡王を合わせ四冠。

 せき・こうたろう 2001年、東京都出身。13年、ワールドユース選手権(少年の部)で日本人として初優勝。17年プロ入り(初段)。21年、天元を獲得。入段から4年8か月での七大タイトル獲得は史上最短記録。

◆藤井王位「囲碁は観戦専門」
 ー互いの活躍ぶりをどうみる
 藤井 関さんは天元戦で(若手トップといわれる)一力遼九段に勝ち、すごいペースで強くなられている印象です。
 関 自分は10代での天元獲得にギリギリ届かなかったが、藤井さんはもう四冠。すごいことだと、ニュースを見て感じています。
 ー関天元の将棋、藤井王位の囲碁はどの程度の腕前か
 関 将棋はほとんどできませんが、ルールは分かります。
 藤井 囲碁は全く分からないです。セキとコウはかろうじて分かるかも(※セキとコウは囲碁用語で、関天元は「セキコウ」の愛称がある)。中継を見ていて、分からないのが逆に面白いです。
 関 将棋の中継を見ていると、遅い時間まで指されているのに驚きます
 ー互いの専門以外で関心を持っている分野は
 関 最近は対局が多く、あまり囲碁以外のことは考えてなかったんですが、せっかくこういう機会をいただいたので将棋にチャレンジしてみたいと思います。
 藤井 最近はチェス・プロブレム(詰将棋のチェス版)に少し取り組んでいます。チェスは将棋と共通点が多いゲームなんですが、それだけにフレームの違う部分が際立って、面白いなと感じています。囲碁は観戦専門にしようと考えています。

◆関天元「AI観戦の方が勉強になる」
 ーAIの活用について
 藤井 将棋ソフトを使い始めたのは奨励会三段のころ。自分が指した将棋の検討と、対局もしています。
 関 (2017年に)「アルファ碁」が世界最強の(中国人棋士)柯潔(かけつ)九段に圧倒的な強さで勝った碁に衝撃を受けました。研究に取り入れ始めたのが、入段(プロ入り)して1、2年目のことです。当時、周りの棋士はまだAIを活用していなかったので、序盤を優位に進められるようになりました。
 ー関天元はAI同士の対局をよく観戦している
 関 勉強というより楽しんで見ていたのですが、対局が増え、その時間は減ってきました。中盤で、人間だと常識の範囲内の手を探してしまうけど、AIは自分の発想にない手が飛び出します。そして一番重要な終盤でほぼミスがない。序盤から終盤までずっと学ぶことが多い。
 ー人間同士の対局を見て得られるものとは違うか
 関 真剣に見るならば、AI同士の対局の方が勉強になると思います。ただ、自分の理解が追いつかない部分が多く、すごく疲れるので、そうしたら人間の碁を見ます。
 藤井 自分も将棋ソフト同士の対局を見ることはありますが、手の意図を考えると大変なので、趣味として気楽に見ています。
◆ディープラーニングで新たな発見
 ー18年末、囲碁だけでなく将棋やチェスも指せる「アルファゼロ」によるAI同士の棋譜が公開され、話題になった。藤井さんもご覧になったか
 藤井 はい。当時はまだディープラーニングを使った将棋ソフトが今ほど強くなっていなかったので、当時のソフトと比べて独特な手、判断というのが「アルファゼロ」の方に多く見られた印象です。ただ、公開されたのは棋譜だけで、自分で使うことはできなかった。その後「dlshogi」というディープラーニングを使ったすごく強い将棋ソフトが公開され、使い始めてからいろいろ発見があって面白いなと思うようになりました。
 ー(「アルファゼロ」を開発したディープマインド社CEOの)デミス・ハサビス氏を取材した際、「囲碁はエレガントなゲームだ」と話しておられた。お二人は自分の専門のゲームに美しさを感じるか
 藤井 うーん、勝ち負けがあるゲームなので、美しさを直接感じる機会はなかなか少ないかと思います。その点、詰将棋は美しさを抽出したところがあるので、そういうエレガントさを感じることが多いです。ただ、将棋でも偶然の結果、指していてそういう(詰将棋のような)局面に至ることがあり、その時の方がインパクトは強いと思います。
 関 僕は正直、人間同士の対局ではあまり美しさを感じられなくて…。これまで人間と対局したAIの石の運び方は、すごく美しいなと感じることが多い。
◆AIは「終盤に焦らず勝つ」
 ー関天元は序盤の局面を見ると、AIの示す勝率が何%か、何となく見えてくるということだが
 関 囲碁は盤面が広く、配石によって同じ形でも勝率が変わってきます。序盤の研究には相当時間をかけており、多少の誤差はあるが、だいたい何%かというのは序盤、中盤あたりまでは分かるかなと思います。
 藤井 定跡から離れた局面で正確に判断するのはとても大変なことですので、すごいことだなと思います。
 ーAIの登場以降、変わった部分と変わらない部分はどこか
 関 勉強しやすくなったな、というのはあります。ただ自分の碁の本質、棋風はあまり変わっていない。序盤はAIの研究を取り入れているんですが、中盤は人間味のある方だと自分では思っています。
 藤井 自分は影響を受けたかなと思います。AIを使う前は序盤の評価をどうすればいいのか、分かっていませんでした。AIを使うことで、どういう形が好手でどういう形が悪手かという認識が少しずつ分かるようになった。中盤はAIをどう生かすのかが難しく、変わっていないところも多いと思います。終盤は、以前は激しく斬り合うことが多かったんですけど、AIの評価を後から見ると、優勢の時は焦らずに指す手を示している時が多い。そういう勝ち方もあるんだと、自分としてはインパクトがありました。

◆「意識しない」ことを意識する
 ー関天元から藤井王位に質問は
 関 一つだけですか?
 ーいくつでもどうぞ
 関 じゃあまず、予定のない日はどのくらい将棋のことを考えていますか?
 藤井 そうですね、1日6時間ぐらい。ずっと取り組んでいるわけでもなく、対局を観戦したり、全然違うことをしたりも。
 関 息抜きはしますか?
 藤井 3〜4時間続けて研究すると、少し違うことをやって、という感じです。関さんは研究会はされていますか?
 関 囲碁界は研究会が盛んですが、自分はAIと勉強していることの方が多いです。一人の時間が多いので、藤井さんの勉強時間を聞いてみたかった。相当集中されての6時間なんでしょうね。では、対局中に意識していることはありますか?
 藤井 むしろ、意識しないようにしていることの方が多いかなと思います。やっぱり考える上で、読みと形勢判断以外のものは基本的にいらない。実戦では時間配分についても考える必要がありますが、どうしてもそれ以外のことを考えてしまいがち。なるべくそういうことを意識しないようにして、というのが近いと思います。
 関 自分は(昨年12月の)天元戦第4局で、勝ったら初めての七大タイトルという雑念、勝ったら取れるな、みたいなことをちょっと考えてしまいました。大舞台では初めてのことでした。藤井さんは相当慣れていらっしゃるので、そういうことはないですよね?
 藤井 でも、全く意識しないというのはなかなかできないので。いかにそういうことを意識してしまう時間をなくすということかなと思っています。対局の時間なので。
 ー対局中、対局室の様子をうかがいに行くと、藤井王位は非常に集中されている印象を受ける
 藤井 対局の時は、周りのことはあまり気にならないことが多いと思います。でも、そんなに集中できているかというと、ちょっと分かりません。
◆「中盤で離される」AIとの差
 ー続いて、藤井王位から関天元に質問は
 藤井 AIを使っての序盤の研究はやりやすいと思うが、中盤の強化はどういう感じで取り組まれていますか?
 関 うーん、例えば中終盤の難しい局面からAIと打ち始めることと、その反省でしょうか。結構やっています。あとは将棋も同じだと思いますが、人間同士の対局を見ることでしょうか。
 藤井 途中の局面から(AIと)対局していますか
 関 はい。囲碁は手がすごく読めても、終盤がよく打てるわけじゃないんです。地合での勝負なので、計算能力も重要です。地を数えて、何目か、というのがあるので、終盤の方が鍛えるのが難しいと感じています。
 藤井 将棋は終盤で互角という対局がけっこう少ないので、終盤から(指し継ぐ)というのはないですかね。序盤が終わり、中盤のあたりから、というのが自分の場合は多いです。
 ーAIと打つ時のハンディはどうしているか
 関 自分はハンディなしですね。やっぱり実戦に役立てたいので。
 ーAIとは何子くらいの差があるものなのか
 関 2子か3子。2子だと勝てない。3子でどうかなるというところ。
 ー将棋だと香落ちとか、角落ちといったイメージか
 藤井 AIの方が相当強いんですけど、将棋の場合は駒落ちだと別のゲームの感覚になってしまうんですね。角落ちだと平手(ハンディなし)とは同じ局面にはならないというところがあって。表すのが難しい。
 ーでは聞き方を変えて、ソフトはもう神さまに近いレベルか、自分より少し強いレベルか
 藤井 いや、相当強いですね。特に中盤はすごく差がある。序盤互角だとしても、基本的には中盤で離されてしまいます。
 ー100回指したら何回か勝てますか
 藤井 いや、ほぼ勝てないでしょう。やっぱり、どのくらいまで互角でできるか、というところだと思います。定跡形以外で少しでもリードするのは、自分の実力では相当難しい。

◆敗北は「勝つまで忘れられない」
 ーそれぞれの師匠との関係について、教えてほしい
 関 師匠(藤澤一就八段)は、自分が級位者のころから囲碁への取り組み方を教えてくれて、個性を伸ばしてくれる先生かなと思います。僕は院生になったのがすごく早いんですが(※小3の時)、囲碁以外のものに興味を持たないようにという師匠の勧めでした。自分の人生の道をつくってくれた先生なので、すごく感謝の気持ちはあります。
 ー最近何か助言は受けたか
 関 いつも「上を目指せ」と。今も言われます。天元のタイトルは取れましたが、自分より強い先生はいっぱいいます。あと、世界戦で優勝してほしいというのは昔から言われています。会うたびに厳しい言葉をもらっている気がします。
 藤井 私自身は、師匠(杉本昌隆八段)からそういう厳しい言葉をかけられることは全くありません。自分にとっていい環境を整えてくださった。その点に専念していただいたのかなという印象です。
 ー棋士というのは負ける職業でもある。悔しい気持ちをどう次につなげるか
 関 自分はやっぱり負けたことをずっと考えちゃうタイプなので、次の対局のことだけを考えるようにしています。負けた後、長い期間対局がないとしんどいですね。ほかにうれしいことがあっても、負けたことがずっと忘れられない。忘れられるのは強い相手に勝った時なんです。
 藤井 負けた後は、どの辺で間違えたということを振り返ります。逆にそれを知ったら、それ以外のことは忘れてしまった方がいい。負けたからといって今までの方法を変えるとかせず、なるべく同じようにやるのがいいかなと思っています。
◆互いの取り組みに刺激
 ー初めてお話をされて、互いの印象は変わったか
 関 将棋のことばかりを考えている方なのかなと思っていました。もちろんそうだとは思うんですが、思ったより自分と意見や考え方が似ている部分もあり、話しやすいなと思いました。
 藤井 違う世界ではありますが、関さんを見ていて刺激になりましたし、新しい取り組み方を聞いて参考になりました。今後に生かしていきたいなと。あと一点、質問です。今はAIによって棋風や評価の違いがあると思いますが、関さんはそれを比較判断されて、どれが自分に合うというのがあるんでしょうか?
 関 囲碁は使えるAIがけっこうあります。棋風が戦闘的だったり、穏やかだったり、どれも魅力がある。一時期はいろんなAIを使って工夫していたが、今は(中国製の)「Golaxy(ゴラクシー)」を使っています。自分がもともと戦う棋風だったので、戦いに強いAIを使うこともあったんですが、最近は自分の棋風を強いAIに順応させるようにしています。自分の打ち方を固定しないというか、どんな碁でも打てるようにならないと。井山さん(裕太五冠)を見ているとやっぱりどんな碁でも打たれるので、それが棋士として理想型なのかなと思います。
 藤井 将棋は囲碁のようにAIのバリエーションがないので。2種類を局面によって(使い分ける)、という感じです。
 ー長時間ありがとうございました
 藤井・関 ありがとうございました。


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